6月4日の『芸妓さん舞妓さんと京会席』で披露された舞踊の曲説明です。
潮来出島(いたこでじま)は2曲目での披露でした。
日本舞踊の中でも特に有名な『藤娘』
流派にもよりますが、藤娘の間に潮来出島が挿入されています。
歌詞
〽潮来出島の眞菰の中で、菖蒲咲くとは、
しおらしさや、サーヨンヤサ、ア、ヨンヤサ。
替歌
〽宇治(富士)の柴船早瀬を渡る、
妾しゃ君ゆえ、上り船、
サーヨンヤサ、ア、ヨンヤサ。
〽花は色々五色に咲くけど、
主に見かえる、花はない、
サーヨンヤサ、ア、ヨンヤサ。
〽花を一もと忘れてきたが、
後で咲くやら、開くやら、
サーヨンヤサ、ア、ヨンヤサ。
しなもよや〔なく〕 花に浮かれて ひと踊り
現代語訳に直すと、
潮来の水郷、中洲の中に、菖蒲が可憐に咲きました。
私もここで咲きながら、あなたが来るのを待っています。
宇治の早瀬を柴船が、木の葉のように渡っていく、
私はあなたに巡りあい、流れに逆らう船になりました。
色とりどりに花は咲き、女もよりどり咲き誇る、
でも、あなたに惚れる女なんて、私の他にいるもんですか。
花を一輪、連れては来ずに置いてきた。
後で迎えに行けるだろうか、あそこできれいに咲くのだろうか。
悪くないね、さあ、花に浮かれてひと踊り。
では用語解説です。
潮来出島・・・常陸国(現茨城県)の潮来で歌われていた歌謡。
潮来・・・利根川と北浦の間にあり、東北地方から江戸への水運の中継港、水郷の地として繁栄しました。
宇治(富士)・・・富士と歌うこともありますが、舞踊の手が山形に両手を交差し「富士」を表す所作となっていることから転化した可能性があります。
宇治川のことで、古来網代・霧・柴船などの景物とあわせて和歌に詠まれることが多いです。
柴船・・・柴木を積んだ小舟。たきぎにする雑木の小枝を載せた舟。
のぼり船・・・「上がり船」ともいいます。
上流へさかのぼる船。
または京・大坂など上方へ向かう船。
五色・・・いろいろの種類、多様に
見かへる(返る)・・・なびく、心ひかれる
一もと・・・草木などの一本。
しな(品)・・・味わい、または趣。
潮来節・・・元々は水路を往来する船で櫓をこぐ際に歌われた船唄だったものが、
潮来の遊廓で三味線音楽として歌われるようになったものです。
潮来の遊廓は鹿島・息栖・香取三社詣での旅客でにぎわい、ここで遊興した人々によって江戸に伝えられ、その後遊廓を中心に全国的に大流行しました。
七・七・七・五音の近世小唄調の詞章で、ほとんどが女性を主体とする恋歌です。
潮来節は同様の七・七・七・五調の地方歌謡の詞章を吸収して曲のバラエティを増やし、また芝居の黒御簾音楽などを通して各地に伝わり、地方歌謡に摂取されました。